2021年2月22日

医療の進歩の功罪~気管支喘息の診断が難しくなりました~

20年前に私が横浜市民病院に勤務していたころ、毎年1人は気管支喘息の大発作で緊急入院し、「喘息」が原因でお亡くなりになった患者さんがいました。また当時夜間や休日当直をしていると毎回複数の喘息患者さんが来院され1/3程度が入院するような状況でした。ところが、今や当直をしていても喘息発作で来院される患者さんがほとんどいなくなりました(ましてや入院する患者さんは年に数人程度まで激減しています)。この理由には2つのことが関係していると思われます。1つ目は言うまでもなく医療の格段の進歩です。吸入ステロイドをはじめとする効果的で安全性の高い喘息治療薬が小児に使えるようになったことです。もう1つは(残念ながら)我々医療者側の責任です。気管支喘息の主要な治療薬(長期管理薬)である抗ロイコトリエン受容体拮抗薬(オノン、プランルカスト、キプレス、シングレア等)が「喘息」の診断がつかないケースでも安易にしかも短期間だけ処方されるケースが増えてしまったことです。結果的に「喘息」であるにもかかわらず、重症化せずに長期間放置される患者さんが増えてしまいました。なので喘息死がなくなり入院する重症患者さんは激減しているにもかかわらず、適切に治療されずに大人まで持ち越す喘息患者さんが増えているという状況になっています。<気管支喘息の診断が難しくなりました>というのはどうしてでしょうか?小児科医にもそれぞれ内科医と同じく専門分野があります。どの専門分野の医療もすごい速さで進歩しています。どうしても自分の専門分野の進歩についていくだけで精一杯ということになります。そうなると40歳以上のアレルギーを専門としない医師にとっては、「20年前に経験した喘息」というイメージで診察することになり現状の「軽症の」喘息患者さんを見逃すことになってしまいます。「軽症」の喘息患者さんは診察時に聴診器で胸の音を聞いただけでは<喘息でない患者さん>と区別がつかないからです。では、このような「軽症の」喘息患者さんを診断するにはどうしたらよいのでしょうか?6歳以上のお子さんならスパイロメトリーや呼気NO測定器を使って客観的に診断します。5歳以下のお子さんなら普段の状態や咳の出方(時間帯、きっかけ、痰が絡むか否か等)、これまでの治療薬やその効果等を保護者の方からじっくりと聞く必要があります(初診の喘息相談は通常30分以上かかる診察となるのはこのためです)。*詳しくはHP内の「気管支喘息」のページをご参照ください