小児気管支喘息の特徴


次にあげるような症状はありませんか?
●咳き込んだ時に胸でひゅーひゅー、ぜーぜーする音が聞かれる
●熱がないのに咳だけが1週間から10日以上続く
●寝入りばなや朝起きた時にしばらく咳き込む
●夜咳き込んで目覚めることがある
●走った後や大泣きした後に咳き込むことがある
●1日の中で咳き込む時間帯がある
●病院で「喘息気味かも」と言われたことが何回かある

吸入治療薬の進歩と早期の治療介入(特にロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA))により重症の喘息患者さん(喘息発作で救急外来受診、入院)はかなり減ってきています。その反面残念なことに軽症~中等症の患者さんが見逃されるケースが増えています。
そのような患者さんは、喘息症状誘発の原因となる気温・気圧変化の時だけ症状が悪化することが多い傾向があります。家で(明け方や就寝時など)症状が出ても翌日外来受診時には無症状なので聴診診察だけでは「喘息ではありません」といわれることが稀ではありません。
ですから気管支喘息の診断のためには上記に挙げたような症状がないかどうか詳しい問診と年齢に合わせた検査が必要となります。

気道の状態変化(解説)
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正常の気管支の模式図です(左・上図)。気管支の内面には2種類の気管支上皮細胞(I)と(II)があり、(II)型細胞は盃細胞とも言われ気管内に痰を分泌しています。よく言われる「痰が絡んだ咳」は気管支からの咳の事が多くこの点で風邪や鼻水が落ちてくる咳とは区別されます。
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気管支が大気汚染物質やたばこの副流煙等に長期間さらされると気管支粘膜は慢性的な炎症を起こしてきます(左・中図)。炎症を越した気管支は外的刺激に対して過敏に反応する状態となり、外的刺激(気温・気圧の変化等)が起こった時に気管支が収縮し多量の痰が放出されます。これが喘息発作の状態です(右図)。
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長期管理薬を継続的に使うことで気管支の状態を正常に戻すことが可能になります(左・中→上)。喘息状態を治療しないと次第に気管支が壊れていきます。壊れた細胞が再生する場合もありますがこの時に気管支細胞としての機能のない細胞に置き換わる(リモデリング)ため、全体として肺に入った空気を1回の呼吸で吐き出せない状態(肺気腫)となってしまいます(左・下)。毎年3000人くらいの患者さんが肺気腫で亡くなっています。また肺気腫の患者さんがインフルエンザやコロナウイルスに感染すると重症化を免れません。残念ながら肺気腫には根本的な治療方法はありません。喘息の患者さんは将来的に肺気腫にならないよう予防していくことが最も大切であると考えてください。

(こどもの喘息ハンドブック(環境再生保全機構))

気管支喘息の診断と治療

(小児喘息治療・管理ガイドライン2023)
これは小児喘息患者さんのタイプ別割合です。注目してもらいたいのは乳児期一過性喘鳴群32.2%と幼児期一過性喘鳴群8.6%という割合です。乳幼児期(5歳以下)に喘鳴を認める患者さんの40%が真の気管支喘息ではなかったということになります。つまり喘息を診断するうえで5歳以下の乳幼児と6歳以上の小児では別個に考える必要があるというこ とになります。
●6歳以上での診断方法
詳細な問診に加えて補助診断が大切です。
①気道炎症をモニターする検査;一酸化窒素(NO)ガス分析装置
未治療の喘息患者さんの場合気道の炎症によって気道内のNOが高くなることが知られています。この値を測定することによって喘息の診断に用います。NOは治療によって低下するため治療中の患者さんの症状が悪化した場合、その原因が喘息によるものかあるいは別な疾患(気管支炎や副鼻腔炎等)によるのか鑑別する場合にも役立ちます。

②呼吸機能を評価する検査;スパイロメトリー検査
気管支喘息では気道が狭くなる現象が生じています。吐く息のスピードを測ることで気道の狭窄状態を検出する検査です。

(小児喘息治療・管理ガイドライン2023)
喘息患者さんの場合点線のような下にえぐれた曲線となり、FEV1.0%、PEF、MMF等の数値が正常より低下します。小児ではCOPD等の疾患がないためこの検査で狭窄が認められたらほぼ気管支喘息の診断が可能です。
●5歳以下の診断方法
診断のフローチャート
前述したように乳幼児期に喘鳴を伴う患者さんには真の気管支喘息ではなく自然に治癒していく患者さん(一過性の喘鳴)が比較的多く含まれます。またこの年齢では6歳以上の児と違い技術的な問題で呼気NO測定やスパイロメトリー検査が行えないということもあります。このため以下のジレンマが生まれます。
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本当の喘息患者さんは早期に治療を開始したい
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喘息ではない患者さんに不必要な治療を行いたくはない
このため乳幼児で喘鳴を伴う患者さんに対しては次のようなプロトコールに従って診断を行います。

(小児喘息治療・管理ガイドライン2023)
この中で最も重要なのが
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少なくとも3回以上喘鳴症状を繰り返す
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気管支拡張薬が効果あり(気管支狭窄が生じている状況証拠)
そのような場合に、実際に短期間の喘息治療を行いその効果を判定して最終診断につなげていきます(診断的治療)
治療方法:長期管理
5歳までと6歳以上の喘息患者さんのスタンダードの治療管理方法はガイドラインに記載されていますのでこれに沿った治療を行う必要があります。
日常の喘息の状態評価
喘息発作は本人の体調だけではなく環境要因(特に気圧・気温変化)の影響を受けるため過去1か月くらいの状態変化を見ながら薬の調整を行う必要があります(このため当院では原則1か月に1回の受診をお願いしています)。毎回以下のような質問票を用いて状態評価を行っています。

(こどもの喘息ハンドブック(環境再生保全機構))
補助的検査による評価
呼気NO測定やスパイロメトリーによる評価を定期的に行っています。
治療方法(長期管理薬)
①LTRA(ロイコトリエン受容体拮抗薬)
LTRAは気管支拡張作用と気道炎症抑制作用を有する経口薬です。プランルカストとモンテルカストの2種類があります。LTRAは鼻閉の改善効果もあるためアレルギー性鼻炎の治療薬としてもよく使われます。
②吸入ステロイド(ICS)
直接気道に作用して強力な炎症抑制作用を有することから気管支喘息の長期管理薬の中心となる薬剤です。経口薬の1/100くらいの量なので全身性の副作用はほとんど認めません(注1)。
③吸入ステロイド/長時間作用型β刺激薬(ICS-LABA)
LABAによる気管支拡張作用で狭窄部分へのICS到達を促進させる効果やLABAの長期投与でβ受容体が減少する(薬が効きにくくなることで投与量が増大してしまう副作用)ことをICSが防止する効果が認められています。またICS単独では気道炎症を抑えられても気道のリモデリングは防止できないことが近年わかってきたため成人領域では基本的治療薬剤と位置付けられています。また小児でもICS≒1/2量ICS-LABAということがわかり、ICS量を減らせる可能性が高いため優先的に使用される方向です。
④生物学的製剤
気道炎症を起こすメカニズムの中心的役割は好酸球性炎症(好酸球が気道で脱顆粒する)であることがわかってきました。この脱顆粒を引き起こす物質はサイトカインと言われIL-4、IL-5、IL-13等が作用していることがわかってきました。このようなサイトカインをピンポイントでブロックするのが生物学的製剤(メポリズマブ;抗IL-5抗体、デユピルマブ;抗IL-4/抗IL-13抗体等)です。全身性のステロイド剤のような副作用が少なく効果を期待できることから特に重症喘息患者さんで使用されています。
(注1)ステロイド薬の副作用について
米国からの報告で平均7年以上の吸入ステロイド使用した男児の小児患者さんで約1cmの最終身長に差を認めたと報告されました。ただそれ以外の副作用はありませんでした。当院では定期的に身長の計測を行っており成長曲線から外れないよう注意しながら治療を行っています。

(小児喘息治療・管理ガイドライン2023)

気管支喘息治療のゴールについて
海外の有名な医学雑誌に衝撃的なデータが報告されました。要約しますと「肺の成長と呼吸機能は20歳ころにピークとなり、その後年齢とともに緩やかに低下していく。小児ぜんそく患者さんでも治療を行わないと肺でのリモデリングが始まり20歳時点ですでに呼吸機能が低下した状態でピークを迎える。したがってその後の加齢により健常者に比べて早い段階でCOPD(肺気腫)に陥ってしまうリスクがある」というものでした。
このような知見を基にして
<従来の気管支喘息の治療目標(ゴール)>
①症状が完全にコントロールされ日常生活に全く支障がない
②無治療であっても①の状態が3年以上維持できる
ということでしたが、
現在はさらに
③呼吸機能の正常化とその維持
という項目が追加されました。
そのうえで小児期から成人期にわたる継続的な治療管理が望ましいとされています。

(小児喘息治療・管理ガイドライン2023)

成人の気管支喘息も診療しますので、お声掛けください。