食物アレルギー(即時型)
食物アレルギーに関して以下のような疑問はありませんか?
●食物アレルギーは治らない(治す方法がない)のですか?
●検査でIgEが陽性と言われ除去していますがいつまで除去するのですか?
●「除去する」ことと「食べて治す」ということは全く逆の方法と思いますがどちらが正しい治療法ですか?
●実際に食べている食品が検査で(IgE)陽性と言われました。除去しなくてはいけませんか?
●以前は離乳食や卵などたんぱく質は遅めに始めるといわれてましたが、最近は逆に早くといわれているようですが、どちらが正しい方法ですか?
食物アレルギーはなぜ起こるのか?
近年、食物アレルギーの成立メカニズムがわかってきました
食物が原因で起こるアレルギー反応はいくつかありますが、特定の食べ物に対して必ず症状が出て、しかも食べてから早いと数分以内に生じるI型アレルギー反応(即時型)に焦点を当てて解説します。
この反応は重症になると皮膚のじんましんだけではなく呼吸困難や意識を失うアナフィラキシーショックも起こすことがあります。近年の食物アレルギーに関する医学の進歩は驚くばかりです。
その重要な発見の一つが、「食物アレルギー」が成立するメカニズムがわかってきたことです。
食物アレルギーの成立メカニズム
人は自分の体を構成するたんぱく質以外のたんぱく質を非自己たんぱく質として認識して、それらが体内に侵入すると自己防衛のため抗体を作ります。予防接種はこの原理を応用して、体に抗体を作らせて病原体が侵入した時に既にある抗体を使って病原体が増えることを阻止します。他人の臓器を移植する場合に拒絶反応が起こるのも同様のメカニズムです。
ところが、体内に侵入する非自己たんぱく質の中で人が通常抗体を作らないものがあります。
それが食物たんぱく質です。
なぜ食物たんぱく質だけが抗体を作らないのでしょうか?
それは食物たんぱく質が腸を通過して体内に吸収されるときに「抗体を作らなくていい(免疫寛容と呼びます)」という認識がされるのです。
すなわち、腸を経由して入ったたんぱく質は免疫寛容が誘導され、腸以外(多くは皮膚や粘膜)を経由して入ってきたたんぱく質は非自己と認識されて抗体が作られるということです。
日本では卵の消費が多いため、食物アレルギーの中では卵アレルギーが最も多い割合を占めています。調査によると一般家庭の埃の中にほほ100%卵のたんぱく質が微量含まれていることがわかりました。卵アレルギーを発症したお子さんに乳児期早期から皮膚のアトピー性皮膚炎を合併しているお子さんが多かったことから、離乳食を始めるまでに皮膚から卵のたんぱく質が体内に侵入しそれが体内に卵の抗体を作らせたのではないかと考えられました(これを2重暴露仮説と言います)。
この仮説を証明する出来事が実は日本で起こりました。「茶のしずく」事件です。
I型食物アレルギーは、通常乳幼児のお子さんの病気であり、大人で起こることはありません。
ところが、突然大人の方が「小麦アレルギー」で全身じんましんや喘息発作、アナフィラキシーショックを起こしたのです。小麦アレルギーを発症した大人の方は全員「茶のしずく」という石鹸を使用していました。調べてみると「茶のしずく」(石鹸)の成分に加水分解小麦が多量に含まれていることがわかりました。「茶のしずく」石鹸を毎日使用しているうちに皮膚から多量の小麦たんぱく質が体内に吸収されたために小麦に対して非自己と認識して抗体を作り始めたことが原因で起きた症状でした(皮膚からの小麦吸収量>食べる小麦の量)。この事件をきっかけに今では「2重暴露仮説」は仮説ではなく定説と考えられています。
食物アレルギーを予防するためにはなるべく早期から食物を食物として認識させることが大事です。当院でも(国立成育医療センターが提唱したプロトコールに従い)乳児期早期から皮膚の症状観察とスキンケアー指導、適切な時期の卵白摂取開始指導を行っています。
食物アレルギー診断、治療のための検査
① 特異的IgE(RAST)検査
対象食物には数十種類のたんぱく質が含まれていますが食物アレルギーの直接的原因となるたんぱく質はその中の数種類に限られます。この原因となるたんぱく質をコンポーネントと言います。食物アレルギーの原因診断においてはこのコンポーネントの特異的IgEを調べることが重要です。例えば卵白のIgEが陽性であってもそのコンポーネントであるオボムコイドのIgEが陰性であれば、結果として卵を食べても食物アレルギーの症状は出ないということになります。
●代表的な食品とそのコンポーネント
*ホエイ;α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン
② 皮膚プリックテスト
対象食品の一部を極小さな針につけて皮膚を穿刺して反応(蕁麻疹様の膨疹)が見られるかどうかで判定します。特異的IgEが調べられない食品でも有用な診断方法です。特異的IgEが陽性になりにくい6か月以下の乳児でも陽性になりやすいと言われています。
③ 経口食物負荷試験(チャレンジテスト)
原因食物の確定診断、最低負荷量(実際にどのくらいの量までなら症状が出ないか)の決定、除去解除の決定等の目的で実施されます。アナフィラキシーショック等リスクの度合いや年齢で(1)外来、(2)入院のどちらで行うか決定します。
食物アレルギーの治療
I型アレルギー反応に対する唯一の根本的治療法が「免疫療法」です。
免疫療法のメカニズムについて解説します。
まずI型アレルギー反応の症状がどのようにして起こるかということです。卵アレルギーの患者さんは、血液中に卵に反応する抗体(IgE)を持っています。体内に白血球の1種である肥満細胞(マスト細胞、好塩基球とも言われる)という細胞が存在します。この細胞はいろいろな化学物質をその体内にため込んでいます。この細胞表面にいろいろなIgEがくっついた状態で存在しています。卵アレルギーの人が間違って卵を食べると、体内に入った卵たんぱく質は肥満細胞の表面にあるIgEに結合します。そうするとこのIgEから電流が流れ(スイッチがONになる)肥満細胞は爆発し周囲にため込んだ化学物質をまき散らします。皮膚にある肥満細胞はじんましん症状を起こし、気管支の肥満細胞は喘息発作を起こし、血管の肥満細胞は血圧低下(ショック)を起こし、というように全身で症状が起こります。
以前行われた除去食による治療は時間をかけてこのIgEを減らそうという試みでしたが、IgEを産生するリンパ球(B細胞)の一部が記憶細胞として体内に残り続けるためIgE産生が止まらず残念ながら失敗に終わりました。
現在、行われている免疫療法の原理は簡単に言えば、「肥満細胞の爆発を阻止する」という治療法です。(反応が起こる量より少ない量の)卵を少量ずつ毎日体に入れると、体の免疫システムが新しい爆発防止システムを作り上げてくれます。卵の少量投与で体内に卵に反応するIgG4抗体が作られます。このIgG4抗体もIgE抗体と同じく肥満細胞の表面にくっつきます。この状態で卵が体内に入ってくるとどうなるのでしょう。IgEにくっついた卵により電流がONになりますが、同時にIgG4に卵がくっつくためこのIgG4が即座に電流を遮断する為、肥満細胞の爆発は起こらなくなります。
これが免疫療法の基本原理です(このようにして反応が出なくなることを「耐性獲得」と言います)。
検査結果に対する正しい解釈
これまでの解説からアレルギー検査に対する正しい解釈がわかると思います。
経口免疫療法
食物アレルギー治療の基本は免疫療法になります。
免疫療法を開始するにあたってまず、お子さんがどれくらいの量を安全に食べられるのかを知ることが必要不可欠です。どれくらいの量が食べられるかを経口負荷試験で確認した後安全量を食べ始めます。経口負荷試験も今は安全性を考慮し3段階(少量、中等量、日常負荷量)に分けなるべく早い段階から実施します。当院では外来での経口負荷試験を実施しています。
ただし、極少量で重症の反応のリスクがあると考えられる場合は、国立病院機構相模原病院での入院負荷試験を依頼しています。
用語解説
少量づつ食べさせる方法には以下の2つがあります。
①食事療法(広義の免疫療法)
負荷試験で安全に食べられる量が判明したら、その量以下の負荷量で毎日食べていきます。
安全量の摂取なので副作用が出る場合も口周りの発赤など軽いものです。
②経口免疫療法(狭義の免疫療法)
負荷試験で極少量の負荷量で反応が見られる場合、そのような微量での毎日の負荷(食べること)は不可能です。その場合、入院して他の薬剤を併用しながら強引にある程度の量まで食べられる状態に持っていきます。その状態で退院後、毎日の負荷を自宅で続けますが、元々不安定な状態ですので体調の変化などで比較的容易に副作用が誘発されることがあります。この場合副作用も喘息発作やショックなど重篤なものが生じる可能性があります。この治療は専門施設での厳格な管理の下でないと実施できません。
食物アレルギーの予防
① 離乳食の早期開始
なるべく早く離乳食を始めることが重要と記載しましたが、今わかっていることで若干の注意点があります。
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鶏卵;離乳食初期(生後5か月)から卵白(0.5g~1g)を離乳食に混ぜて開始します。9か月頃からは10倍に増やします。大事なことは摂取を継続することです。注意点として卵黄で開始してはいけません。なぜかと言うと卵黄は乳児の食物蛋白誘発胃腸炎症候群(FPIES)(食物アレルギー(特殊型)の項参照)の原因となるケースが多いためです。
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牛乳;生後1か月から少量のミルクを開始することが牛乳アレルギーのリスクを最も下げることにつながるというデータが示されました。量的には10ml/日くらいの少量で十分です。この場合も大事なことは継続することです。逆に牛乳アレルギーの最も高かったリスクの児は、生後3日以内に人工乳を飲んでその後母乳単独栄養にした場合でした。もし最初から人工乳を始めた場合はそのまま中断せずに人工乳を少量でも継続することが推奨されています。
② アトピー性皮膚炎の早期治療
私たちは日々様々な外来抗原にさらされています。皮膚は最も重要なバリア機能です。前述したように食べる前に食物抗原が侵入しないためにも早期に皮膚の状態を改善させることが最も重要な食物アレルギー予防対策と言えます。
検査機器
微量の血液(20μl)で41種類の特異的IgEが定量検査できる機器を導入しました。結果も30分以内に判断できます。
ダニ、花粉、動物、カビ、食物等41種類の抗原に対するアレルギー反応が1度に調べられます。
乳幼児のお子さんでも負担(ストレス)なく検査可能ですのでお気軽にご相談ください。